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番外編 第十二話 言う相手、言わない相手

Author: 海野雫
last update publish date: 2026-06-25 19:06:09

 日曜の夕方、紡はひさしぶりに自宅マンションへ帰ってきた。

 いまは朔也の家にいるほうが多く、この部屋に戻るのは週に一度あるかないかだ。長く暮らしてきたはずなのに、こもった空気が、ここをよその家みたいに感じさせる。

 窓から差す夕日が、見慣れた家具をオレンジに染めている。ものはどれも元の場所にあるのに、どこか冷たく見えた。郵便受けにたまった広告。流しに伏せたままのマグカップ。生活の止まった部屋の匂いがする。

 ここには、紡の荷物がある。けれど、紡の暮らしはもうこの部屋にはない。

 ――きっと、あっちでの暮らしのほうが、もう心地いいんだろうな。

 そんなことを考えていると、スマホが震えた。画面を見ると、実家からだった。

「もしもし」

『紡?』

 母だった。実家からは月に何度か、こうして電話がかかってくる。もう二十七なんだから心配いらないと言っても、やめてくれない。

「母さん、元気?」

『私は元気よー。紡は?』

 朗らかな声に、少し

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     店の引き戸を、後ろ手に閉めた。そのまま、扉に背をもたせかけた。 ――ああ。やっちまった、かな。 あれは、どう見ても「キスをしようとした」と取られても仕方ない。いや、実際にしようとしたのだ。あまりに紡が無防備で、こらえがきかなかった。自分以外の男に、あんなに近い距離で囁かれているのを、見ていられなかった。 つまり、嫉妬だ。 みっともないほどの、ただの、嫉妬だった。 朔也は、大きく、ため息をついた。入り口近くの席の客が、その大きなため息にちらと振り返ったが、すぐに自分たちの話の輪へ戻っていった。

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